「うちの会社でも、生成AIを導入しました」
最近、このような話を聞くことが増えました。
ChatGPTなどの生成AIを使えるようにする。
社内研修を実施する。
プロンプトの例を配る。
メールや議事録、資料作成に使ってみる。
AIを仕事で使うことは、少しずつ特別なことではなくなってきています。
ところが、数か月たって振り返ってみると、
「確かに便利にはなった」
「文章を作る時間は短くなった」
「でも、仕事そのものはあまり変わっていない」
ということがあります。
特に中小企業や少人数の組織では、一部の人が文章作成や情報検索に使うだけで、活用が止まってしまうことも少なくありません。
AIを導入したのに、なぜ仕事は変わらないのでしょうか。
私は、その理由の一つは、AIの性能や操作方法ではなく、
「何にAIを使うのかが整理されていないこと」
にあるのではないかと考えています。
目次
- AIを使う人は増えた。でも、仕事の流れには入っていない
- 効率化は進んでも、価値創出には課題が残る
- 「AIで何ができるか」から考えると、仕事は変わりにくい
- システム障害が起きても、いきなりプログラムは直さない
- 「AIを使える業務がない」のではなく、見つけられていないのかもしれない
- AI活用には、四つの段階がある
- 1.作業を短くする
- 2.情報を整理する
- 3.判断や提案を支援する
- 4.新しい価値をつくる
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AIを使う人は増えた。でも、仕事の流れには入っていない
IPA(情報処理推進機構)が公表した「DX動向2025」では、日本企業の生成AIへの取り組み状況が調査されています。
2024年度の日本企業では、
- すでに導入している:22.6%
- 現在、試験利用している:16.7%
- 利用に向けて検討を進めている:9.4%
となっており、合計すると48.7%です。
日本企業の5割弱が、生成AIに対して何らかの前向きな取り組みをしていることになります。
さらに、生成AIを導入・検討している企業に具体的な使い方を尋ねたところ、日本企業では、
「個人で業務利用している。文書作成やアイデア出しなど」
という回答が62.1%ありました。
一方で、
「部署の業務プロセスに組み込まれている」
という回答は13.1%にとどまっています。
米国は37.8%、ドイツは37.9%です。
この結果から見えてくるのは、
AIを使う人は増えているけれど、AIを使うことを前提に、仕事の進め方を変えるところまでは進んでいない
という状況です。
個人がメールを書いたり、文章を要約したりするところまでは進んでいる。
しかし、部署全体の仕事の流れや、判断の仕組み、顧客への価値提供を変えるところには、まだ十分に届いていない。
多くの会社が、今この段階にいるのだと思います。
効率化は進んでも、価値創出には課題が残る
ここで、一つ注意しておきたいことがあります。
IPAの調査には、生成AIの利用状況だけでなく、DX全体の取り組みと成果についての調査も含まれています。
DX全体を見ると、日本企業は、
「アナログ・物理データのデジタル化」
「業務の効率化による生産性の向上」
では、比較的成果が出ています。
その一方で、
- 既存製品・サービスの高付加価値化
- 新規製品・サービスの創出
- 顧客起点の価値創出
- ビジネスモデルの根本的な変革
といった項目では、米国やドイツと比べて、成果が出ている割合が低いことが示されています。
これは、生成AIだけの成果を調べた結果ではありません。
そのため、
「生成AIを導入した会社は価値を生み出せていない」
と単純に結論づけることはできません。
ただ、二つの調査結果を並べてみると、
生成AIは個人利用を中心に広がっている。
DX全体では、効率化に比べて、新しい価値の創出に課題が残っている。
という傾向が見えてきます。
これから必要なのは、AIを使うこと自体を目的にするのではなく、
AIを使って何を変え、誰にどのような価値を返すのかを考えること
なのではないでしょうか。
「AIで何ができるか」から考えると、仕事は変わりにくい
AI活用が効率化だけで止まってしまう理由の一つは、
「AIで何ができるか」から考えてしまうこと
にあります。
「AIで議事録を作れないか」
「メールを書けないか」
「企画書を作れないか」
「問い合わせに回答できないか」
もちろん、これらも大切な活用です。
作業時間が短くなれば、現場の負担は軽くなります。
しかし、それだけでは、これまで人が行っていた作業をAIに置き換えただけです。
仕事の目的や流れ、判断方法、顧客に提供する価値までは、大きく変わりません。
本来、先に考えたいのは、
「AIで何ができるか」
ではなく、
「今の仕事のどこに問題があるのか」
です。
システム障害が起きても、いきなりプログラムは直さない
私はシステムエンジニアとして、25年以上、システム開発やプロジェクトに関わってきました。
システムに障害が起きたとき、いきなりプログラムを書き換えることはしません。
まず、問題を切り分けます。
どの画面で起きているのか。
いつから起きているのか。
すべての利用者に起きているのか。
特定のデータだけで起きるのか。
プログラムの問題なのか。
データベースなのか。
ネットワークなのか。
影響範囲はどこまでなのか。
問題が起きている場所を特定しなければ、正しい対策はできません。
原因を確認しないまま変更すれば、一時的に直ったように見えても、別の問題が起きることがあります。
AI導入も、これと同じです。
「とりあえずAIを使ってみる」
「話題のツールを入れてみる」
という入り方では、効果が出る場合もあれば、ほとんど使われなくなる場合もあります。
まずは、仕事を切り分ける必要があります。
例えば、
- 時間がかかりすぎている作業
- 同じことを繰り返している作業
- 情報を探すことに時間を使っている業務
- 特定の人に判断が集中している業務
- 担当者によって提案の質が変わる業務
- お客様の声を十分に活かせていない業務
- 本来考えるべきことに時間を使えていない業務
このように仕事を分けていくと、
AIを使った方がよい場所と、
人が行った方がよい場所が見えてきます。
AIは、すべての仕事に使えばよいわけではありません。
効果が出る場所を見つけて、小さく使うことが大切です。
「AIを使える業務がない」のではなく、見つけられていないのかもしれない
IPAの調査では、日本企業の25.9%が、生成AIを業務で活用する上での課題として、
「生成AIを活用できそうな業務がない」
と回答しています。
米国は10.8%、ドイツは13.4%です。
もちろん、業務内容や情報管理上の理由から、生成AIを使いにくい会社もあります。
しかし、本当に使える業務がないのでしょうか。
私は、
業務が大きな固まりのままで、十分に切り分けられていないため、AIを使う場所が見つかっていない
というケースもあるのではないかと考えています。
例えば、「営業」という大きな仕事を、そのままAIに任せることはできません。
しかし、営業の仕事を分けてみると、
- 顧客情報を整理する
- 商談内容を要約する
- 顧客の課題について仮説を出す
- 次回確認する質問を考える
- 提案書の構成を作る
- 過去の事例を探す
- 商談後のメールを下書きする
という複数の作業があります。
この中には、AIが支援できるものがいくつもあります。
仕事を細かく分けることで、初めてAIの使いどころが見えてくるのです。
AI活用には、四つの段階がある
生成AIの利用というと、文章作成や要約による時間短縮が注目されます。
ただ、AIが支援できるのは、作業だけではありません。
私は、AI活用には大きく四つの段階があると考えています。
1.作業を短くする
メールの下書き、文章の要約、議事録の作成などです。
これまで30分かかっていた作業を、10分に短縮する。
多くの人が最初に取り組みやすい使い方です。
2.情報を整理する
複数の資料から共通点を探す。
会議で決まったことと、決まっていないことを分ける。
大量の情報から、重要な点を抜き出す。
この段階になると、AIは単なる文章作成ツールではなくなります。
3.判断や提案を支援する
AIに最終判断を任せるのではありません。
判断に必要な情報や選択肢、リスクを整理してもらうのです。
管理職であれば、
- 意見が分かれている点
- 判断に必要な追加情報
- 想定されるリスク
- 次に確認すること
を整理できます。
営業やコンサルタントであれば、
- 顧客が本当に困っていること
- まだ確認できていないこと
- 提案できる選択肢
- 過去事例との共通点
を整理できます。
4.新しい価値をつくる
効率化によって生まれた時間や、整理された情報を使って、
提案の質を高める。
顧客への支援を深める。
社内に蓄積された経験を共有する。
新しいサービスを考える。
ここまで進んだとき、AIは単なる時短ツールではなく、
仕事やサービスの価値を高めるための相棒
になります。
分身AIは、自分の代わりに働くAIではない
私は、このようなAIの使い方を「分身AI」と呼んでいます。
分身AIというと、
「自分の代わりに、すべての仕事をしてくれるAI」
を想像する人もいるかもしれません。
しかし、私が考える分身AIは少し違います。
自分がこれまで積み重ねてきた、
- 経験
- 専門知識
- 仕事の進め方
- 判断基準
- 大切にしている価値観
- 相手に問いかける視点
を言葉にして、AIに反映していく。
そして、考えることや整理することを支援してもらう。
それが分身AIです。
経験のある人ほど、多くのことを無意識に判断しています。
何が本当の問題なのか。
どこから確認すべきなのか。
何を守るべきなのか。
何を変えた方がよいのか。
今すぐ決めることなのか。
まだ決めなくてよいことなのか。
こうした判断軸は、本人にとっては当たり前になっているため、言葉になっていないことがあります。
その暗黙の経験を言語化し、AIに持たせる。
するとAIは、単にきれいな文章を作るだけではなく、その人らしい視点で情報を整理するようになります。
分身AIは、自分を消すためのものではありません。
むしろ、
自分が培ってきた経験や判断軸を、見える形にするためのもの
だと私は考えています。
AIを導入する前に、三つの問いを整理する
AIを仕事の変化につなげるには、どこから始めればよいのでしょうか。
私は、まず次の三つを整理することが大切だと思っています。
1.今、どこで仕事が止まっているのか
時間がかかっているのか。
情報が見つからないのか。
判断できないのか。
担当者によって品質が変わるのか。
まずは、困っている場所を明確にします。
2.誰の経験や判断に依存しているのか
「この人に聞かないと分からない」
「担当者によって回答が変わる」
という業務には、言葉になっていない判断基準が隠れています。
その判断基準を整理することが、分身AIづくりの入口になります。
3.お客様にどんな価値を返したいのか
時間を短縮することだけを目的にしないことです。
空いた時間を何に使うのか。
提案を深めるのか。
お客様と話す時間を増やすのか。
新しいサービスを考えるのか。
ここまで決めることで、AI活用は効率化から価値創出へ進みます。
AIを入れただけでは、仕事は変わらない
AIの操作方法やプロンプトを学ぶことは大切です。
ただ、その前に整理したいことがあります。
それは、
「私たちは、何を変えたいのか」
ということです。
解決したい問題が曖昧なままでは、どれほど高性能なAIを導入しても、使い道は曖昧になります。
反対に、問題が整理されていれば、最初から大きな仕組みを作る必要はありません。
一つの業務。
一つの判断。
一人の担当者。
そこから小さく試すことができます。
AIを導入したから、仕事が変わるのではありません。
何を守り、何を変え、どこにAIを使うのかを決めたとき、仕事は変わり始めます。
AI時代に必要なのは、AIの操作に詳しい人だけではありません。
目の前の仕事を整理し、
本当の問題を見つけ、
人が大切にしているものを理解した上で、
AIを使う場所を決められる人。
そして、効率化によって生まれた余白を、提案や顧客支援、新しい価値へ変えられる人。
これからは、そんな役割がますます大切になるのではないでしょうか。
私は、システムエンジニアとして培ってきた問題切り分けの視点と、コーチングによる思考整理を組み合わせながら、
「どのAIを使うか」ではなく、
「何にAIを使うべきか」
を一緒に整理する支援をしています。
分身AIづくりも、最初から完成形を目指す必要はありません。
まずは、自分の仕事の中から、
「時間がかかっているのに、本当は人が考えなくてもよい作業」
を一つだけ探してみてください。
そこが、AIによって仕事を変える最初の入口になるかもしれません。
参考資料
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
『DX動向2025――日米独比較で探る成果創出の方向性「内向き・部分最適」から「外向き・全体最適」へ』
本記事では、IPAが公開している訂正版の本文およびデータ集を参照しています。


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